朝来市・和田山町竹田 / パンケーキとコーヒーの店
六月三十日
十一センチを、二枚
パンケーキ&コーヒーぽわん

六月の最後の日である。
朝から日が差して、少し歩くと背が湿った。
昨日、私はこの町で初めて上を見ずに店を出た。 それが今日になると、見ないと決めている、という形に変わっている。 見ると決めるのも、見ないと決めるのも、同じ一つに繋がれている。 繋がれたまま、腹だけが減った。
北へ歩いた。 低い瓦の家が続き、道は石を積んだ塀に沿っている。 軒に、白い丸いものが下がっていた。 灯の入る看板で、赤い点をいくつも並べて丸い形が組んである。 下に、ぽわん、とあった。 ガラスの戸は引いてある。
中は黒い梁が低く渡してあり、天井までは高い。 硝子の向こうに、いま歩いてきた塀と、刈り込んだ松が見えた。 窓際の卓についた。 外の道より、店の中のほうが暗い。

品書きが置いてある。 パンケーキは直径十一センチくらいの大きさです、とまず書いてあった。 一枚は、ちょっと食べたい時に。 二枚からは、載せるものをつけて。 何を食うかより先に、どれだけ食うかの決め方が書いてある。
この町へ来て五日、私は大きなものばかり受け取りそこねてきた。 石垣も、季節の合わない雲の海も、こちらで単位を決められない。 向こうの大きさに、こちらが合わせるしかなかった。 十一センチには、それがない。
載せるものの欄に、目玉焼き、サラダとあり、その下に、岩津ねぎのウインナー、但馬牛のチリコンカンとあった。 かな三文字の名の店に、この土地の名が二つ、下のほうに並んでいる。
二枚で、と言った。 はい、と返った。 昨日は掌の画面から送ったので、声に出して物を頼むのは久しぶりであった。
薄い桃色の丸皿に、円が二つ、少しずらして置かれた。 上の一枚に四角いバターが乗り、脇の小鉢に、季節のものだという煮た果実がある。 黒糖の蜜が添えてあった。 赤い器のコーヒーは黒く、底が見えなかった。

端をフォークで割ると、思ったより素直に切れた。 甘くはない。 バターが溶けて、蜜がゆっくり回った。 二枚目には果実を少し乗せた。
私はいま、円いものを食っている。 石垣は四角く、雲は形を持たない。 円いものは手のなかで終わっていて、遠くから眺めるところがない。
ごちそうさま、と言って外へ出た。 ありがとうございました、と背中に返った。
道の真ん中で、上を見た。 昨日見なかったものを、今日は自分から見た。 近い。 首を後ろへ倒さないと入らないほど近く、絵にはならなかった。 五日かけて絵にしそこねたものが、絵にならないまま、そこにあった。
本日の皿
看板の皿
物語の余韻を、実際に選ぶ一皿へつなぐ。

品書きから
パンケーキバーガー
焼いたパンケーキ二枚をバンズのかわりにして、チーズをのせたハンバーグとレタスを挟む。薄い桃色の丸皿に、レタスと赤い実のサラダが添う。目玉焼きと岩津ねぎのウインナーを足した盛りもあり、品書きには載せるものの組み合わせが例として並ぶ。パンケーキは直径十一センチほどで、一枚から頼める。
店内の品書きと、公開されている写真をもとに構成。提供内容は変更される場合があるため、訪問前に公式情報またはGoogleマップをご確認ください。
周辺図
道しるべ
〒669-5252 兵庫県朝来市和田山町竹田370
イメージ図。正確な道順はGoogleマップでこの文章は、公開されている店舗情報や来店者の声を参考に構成した創作エッセイだ。 営業時間、定休日、メニューは変更される場合がある。 訪問前に公式情報またはGoogleマップを確認してほしい。