朝来市・和田山町竹田 / カレーを練り込んだ手打ちうどん
七月三日
今日は、その紙が出ていない
本格手打うどん 一心 竹田店

今日、この町を出る。
荷は朝のうちにまとめた。
八日いた。 山の上の石垣は、前の町の窓と、壁の額と、皿の名のなかで見た。 自分から仰いだのは一度きりで、それも三日前である。
町を北へ抜けると家並みが切れて、川がひとすじ、道と並んで流れはじめた。 橋を渡れば向こう岸にまた家が続くが、渡らずに済む道が一本、まっすぐ北へ伸びている。 その東側に、低く長い平屋があった。 正面はほとんど黒い枠のガラスである。 軒下の白い横断幕に、味にこだわり、麺にこだわり、手打一筋、とある。 少し離れた別棟にも大きなガラスがあって、麺を打つ場所であるらしい。
入口の脇に、紙が何枚か貼ってある。 ラーメンは今日のぶんが尽きたとあり、鴨は入るまでできないとあった。 どれも手で書いてある。 貼っていないものが一枚、ガラスの内側に立てかけてあった。 これだけ手で書いていない。 本日、カレーカレーうどんはできません。申し訳ありません。 出せない日が、刷って持っておくほどにはあるということである。 その紙が、今日は出ていない。
戸を開け、靴を脱いで一段上がった。 低い卓の並ぶ畳の間である。

壁は埋まっていた。 掛けてあるものの一つは暦で、竹田城跡、と題がある。 開いてあるのは五月と六月の見開きで、上半分の写真では、谷を埋めた雲海から石垣だけが出ていた。 下半分には日付の格子が二か月ぶん並んでいる。 雲海は、七月には出ないと聞いた。 隣は古めかしい鳥瞰の図で、水色の線が石垣の輪郭をたどる。 手前に周辺の地図の写しが紐で吊ってあり、別の面には大きな写真と、細長い木の札。 料理を写した紙が上下二段に八枚。 どれも、今日ここへ掛かったものではない。
卓の品書きを開いた。 看板の一杯には、元祖、天空のカレー麺、と冠してある。 めくると、祭の名を借りた一杯があり、町の名をそのまま持つ定食があった。 肉のうどんの欄にだけ、牛肉は但馬牛ではありません、と店のほうから断り書きがある。 借りられるものは借り、借りていないものは自分から言う家であるらしい。
カレーカレーうどん、と頼んだ。 好きだから選んだのではない。 今日はできる、と外の紙が決めていた。
黒い丼が置かれた。 だしは墨を溶いたように濃く、底が見えない。 牛肉の細切れと刻んだ青ねぎが浮いている。 箸を入れて持ち上げると、麺のほうが黄色かった。

太さは揃っていない。 とろみが絡んで、持ち上げても麺から離れなかった。 噛むと、だしの辛さとは別のところから、もう一つ辛いものが出る。 表に掛けたのではなく、練り込んで打ってあるほうの辛さである。
壁の城は、明日も明後日も同じところに掛かっている。 今日でなくてよかった。 今日でなければならなかったのは、この一杯のほうである。
表へ出た。 道は北へまっすぐ抜けて、先のほうは白く霞んでいる。 喜多垣で、北か西かと聞いた日がある。 西を採って、十二日が経った。 残っているほうへ歩く。
本日の皿
看板の皿
物語の余韻を、実際に選ぶ一皿へつなぐ。

品書きから
元祖 天空のカレー麺(カレーカレーうどん)
店で打つ麺そのものにカレーを練り込み、特製のカレーだしで供する一杯。黒い丼に、太さの揃わない黄色い平打ちの手打ち麺、牛肉の細切れ、青ねぎ、淡く透ける薄切りの具が入る。辛口の表記があり、定食にはご飯と小鉢二品と漬物が付く。うどんを和そばに替えた品、味噌を合わせた品、とうがらしで辛さを足した品も同じ頁に並ぶ。
店内の品書きと公開されている写真をもとに構成。品目や価格は変更される場合があるため、訪問前に公式情報またはGoogleマップをご確認ください。
周辺図
道しるべ
〒669-5252 兵庫県朝来市和田山町竹田1523-1
イメージ図。正確な道順はGoogleマップでこの文章は、公開されている店舗情報や来店者の声を参考に構成した創作エッセイだ。 営業時間、定休日、メニューは変更される場合がある。 訪問前に公式情報またはGoogleマップを確認してほしい。